第1話 微細カスの正体を暴け──現場三人衆の記録

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【ゼロ・カス道の幕開け】

―非凡ケニとスチール猫(猫翔)、そしてクール参謀トワの現場漫才録・第一話 超・超・超リアル完全版―


第一幕:一本の電話が工場を揺らした

昼下がりの工場は、いつも通りプレス機の打音が響いていた。
ギシン、ガシャン、ギシン、ガシャン……
金属の匂いと油の匂いが入り混じる、いつもの午後。

その空気を切り裂いた一本の電話。
「基板ショートです!市場で事故が出ました!」

受話器の向こうの担当者の声は、金属の擦れる音のように震えていた。
「原因は……シャーシから落ちた“微細カス”の可能性が高いと」

俺は受話器をゆっくり置いた。
手のひらがじっとりと汗ばんでいた。

トワ(クールに)
「ふむ、市場で出たなら一大事だな。
工場内でカスが舞うのは“日常”でも、客先から見れば“非常”になる。
──冷静に考えれば、そういうことだ。」


第二幕:X社調達課長、怒りの来訪

数日後、X社の調達課長が、まるで冬の暴風雪のような剣幕でやってきた。
後ろには部長、工場長、そして社長までも。
応接室に入った瞬間、金属の匂いよりも怒りの匂いが立ち込めた。

X社調達課長
「おらおらおらぁ!基板がショートしたのは御社のせいだろうが!」

スチール猫(小声でケニに)
「ケニ殿…あの課長の顔、まるで“大減税を発表された財務省”の表情だにゃ。
補正予算が吹っ飛ぶ勢いで怒ってるぞ。」

非凡ケニ(心の声)
「たしかに…。まるで財布ごとぶん投げられたみたいな顔だ。
でも俺らのは“税金”じゃなく“カス”だ。落ちるんだ、勝手に。」

トワ(冷ややかに)
「まぁ、どちらにせよ“お金”も“カス”も失われれば人は激怒する。
課長の反応は自然現象だよ。嵐が吹くようにね。」

課長は机を叩き、部長は腕を組み、工場長は眉間にしわを寄せ、社長は無言。
空気は酸欠のように重く、時計の針の音だけがやけに響いた。


第三幕:無理という言葉

わが社の部長が意を決して言った。

部長
「プレス加工で“カスゼロ”は物理的に不可能です」

沈黙。
客先の顔が一斉に硬直した。

スチール猫
「にゃぁ〜、“不可能”って言っちゃったにゃ。
まるで『想定外でした』って言い張る政治家みたいにゃ!」

非凡ケニ
「猫翔、お前は黙っとけ!」

トワ(肩をすくめて)
「“不可能”と断言するのは楽だな。
挑戦しない言い訳としては完璧だ。──ただし、相手の信頼はゼロになる。」

結局この日の応接は「ゼロは無理」という言葉で幕を閉じた。


第四幕:心の裏側

しかし応接室を出たあと、互いの心は煮えたぎっていた。

X社サイド(帰りの車内)

調達課長(心の声)
「ふざけるな!“無理です”で終わりだと?
“難しいが可能性を探る”くらい言えんのか!
もうこんな会社、取引やめっか!」

同行部長
「顧客対応の態度じゃないな…。余計に不安になる。」

わが社サイド(帰社後の溜息)

担当者(心の声)
「ふぅ〜やっと帰った…。
でも正直ゼロなんて無理に決まってる。
金属を金属で切るんだからカスは必ず出る。
それを無視して“ゼロにしろ”って…無茶振りにもほどがある!」

トワ(冷静に締める)
「つまり両者とも“自分の正論”に閉じこもっていたわけだ。
──こういう時、一番割を食うのは、現場だ。」


第五幕:非凡ケニの誓い

俺は心の中で拳を握った。
「無理です」で逃げるのは簡単だ。
だがそれでは未来は開けない。

非凡ケニ
「今はできない。だが永遠にできないわけじゃない。
高い壁にも必ず穴がある。
頭の隅に置いておけば、いつか突破口が見つかるはずだ。
だから…俺は挑む!」

スチール猫(深呼吸して羽を広げながら)
「すぅ〜〜はぁ〜〜…細胞にエネルギー充填完了にゃ!
さぁ、俺も飛ぶぞ!ケニ殿、ゼロ・カス道に羽ばたくんだ!」

トワ(冷笑気味に)
「ふたりとも熱すぎるな。
だがその熱がなければ、氷のように動かぬ金型は変わらない。
──行け、炎と鉄のコンビ。」


第六幕:白紙に散る真実

工場に戻り、俺は製品を10cmの高さから白い紙に落とした。

パラパラパラ…
銀色の粉が雪のように舞った。
金属の匂いと油の匂いが混じり、鼻の奥がツンとする。

スチール猫
「うわっ!宝塚レビューのフィナーレだにゃ!
基板の上にこれが降ったら、ショートどころか回路もカーニバルにゃ!」

非凡ケニ
「これが現実だ…。基板ショートも当然だな」

トワ
「美しいだろう? 光を浴びて舞う金属片は。
──だがそれは、基板にとって“死の粉雪”にすぎない。」


第七幕:金型の奥に潜む怪物

製品と金型を徹底的に調べ、俺たちは真因を見つけた。

非凡ケニ
「ここだ。絞り部近くの外径トリムカット。
材料がダイに乗り上げて浮いている。
さらに絞り部の受けが干渉して押している。
これじゃ抜きながらカスをばら撒くわけだ。」

スチール猫
「真犯人はトリム部か!よし、現行犯逮捕だ!」

トワ
「犯人扱いか。
まぁ、“工程犯罪学”というなら正しい表現かもな。」

非凡ケニ
「いや、まだ刑務所までは行けない。
受けを大きくニガして、干渉を止める。
まずはそれで様子を見るしかない。」


第八幕:一件落着の錯覚

修正後、再び白紙に製品を落とす。
散るカスは激減した。
油の匂いが薄れ、紙の上に残るのは微かに光る欠片だけ。

スチール猫
「おぉ!やったにゃ!これで一件落着、居酒屋で乾杯だ!」

非凡ケニ
「あぁ…俺もそう思った。
“これで終わった”と。浮かれていたんだ。
だがな……その時は知らなかった。
このあと、もっと恐ろしい出来事が待っていることを。」

トワ(冷たく一言)
「人はいつも“解決した”と思った時に、次の地雷を踏む。
物語はまだ、プロローグにすぎない。」

(照明が落ち、金型の奥で不気味な影がゆらめく。)


次回予告

「傾斜カットの怪」
──ゼロ・カス道 第二話へ続く。