— SECC t1.0/順送160t/U曲げ70mm/左右同軸0.1/左右アーム約120mm/サイドピアスΦ2.3&Φ3.0 —
ナレーション:
量産が始まってから数か月経ったある日、バリとカジリでストップ。
検査票はOK、現物はNG。測っても揃ってる、でも壊れる。
会議室に集まったのは、ケニ、スチール猫、トワ、三羽ガラス、現場、営業、Mr.シュガー(中国駐在/オンライン)。
見えない力を、言葉と図であぶり出す夜が始まる。
第一幕 開戦
製造部長:
「量産止まった。サイドピアスでバリ&カジリ。今日中に道筋を。」
営業部長:
「現地トライOK、検査票OK、移管OK。つまりOKの三段活用です。」
スチール猫:
「OKの三段活用って、OK, おけ, オッケー牧場のこと?それともオー結構!」
品証部長:
「牧場より現場を見ろ。」
技術部長:
「図面条件:SECC t=1.0、U曲げ高70mm、同軸0.1、サイドピアスΦ2.3/Φ3.0。定石は外してない。」
現場オペレーター:
「測定は全部合ってます。でも噛みます。どうしても噛みます。」
トワ:
「合ってるは計測空間での話。現象は加工空間で起きる。空間が違えば真実は分裂する。」
スチール猫:
「真実の分裂!猫は毎日睡魔と現実が分裂してる。」
ケニ:
「空通しから行く。サイドピアスのストリッパーとカムの戻りバネ外し、パンチ手送りでダイへ。抵抗確認。」
(全員が覗き込む)
ケニ:
「……抵抗なし。位置出てる。」
技術部長:
「ガタ無し、押さえ圧十分、理屈上は煽られない。」
現場オペレーター:
「でも噛むんですよ、確実に。バリも育ちます。」
トワ:
「理屈の完全は、現実の不完全を説明しない。次。」
第二幕 迷走0.2mmと、トワの舌
金型Gr-A:
「サイドピアスダイを0.2mm、カジリ反対側に振って当たり薄くしよう。」
ケニ(内心):
(逆側が空打ちで当たる。でもやらせて見せるほうが学習は深い。)
(試作→結果)
金型Gr-A:
「少しマシかなぁ。が、逆側にカジリ出ました。使えないレベルでは無さそう。」
トワ:
「0.2mmの善意は、最初に傾きを転嫁して帳尻を合わせただけ。パッチは因果を壊す。」
スチール猫:
「「にゃるほど!0.2mmのパッチって、絆創膏じゃなくて、ただの『応急シール』だにゃ!エンドロールには『責任逃れ担当』って載せとくにゃ。」」
製造部長:
「じゃあ何がパンチを横に押してる?」
トワ:
「誰かではなくいつか。時間方向の接触を疑え。
必要な瞬間だけ必要な場所だけ押さえているか?」
第三幕 スケルトン査問会
ケニ:
「スケルトンをピッチ順に並べる。時間×空間で追うぞ。」
(机にスケルトンが整列。全員が立って囲む)
ケニ:
「ピアス直前だけ押さえればいいのに、前工程でも後工程でもアイドルでも押さえてる。
板押さえの範囲が広すぎ&時間が長すぎ。」
技術部長:
「……偏荷重でストリッパーの微傾き、ピアス初期に横力が立つ……あり得る。」
品証部長:
「検査票には押さえ時間の項目が無い。だから見落とす。」(あるわけない)
Mr.シュガー(画面の向こう):
「言ったんだけどなぁ~、押さえすぎ注意って。じゃ、今も言っとくね。
(スマホ連打)」
スチール猫:
「砂糖の言った, 言ってる, 言っておく活用。甘口三兄弟。」
トワ:
「ヒアリングは空気、現象は鋼。鋼は黙るが嘘はつかない。」
ケニ:
「犯人=過剰な押さえで仮説を立てる。ピアス周囲以外は全面ニゲ、周囲は片側約7mmの保持帯だけ残す。押さえ圧は必要十分に。」
金型Gr-A:
「押さえ面の削除、やります。面も軽く整えます。」
スチール猫:
「減押(げんおさ)主義、開宗。お布施は7ミリでお願いします。」
第四幕 トライ、そして静かな面
(プレスが降りる。短い沈黙。排出品を手に取る)
現場オペレーター:
「……バリ沈黙。カジリ消失。同軸0.1も守れてます。」
品証部長:
「Rzのばらつき、半減。記録に残す。押さえ当たり図も図面添付にする。」(いつもながら関係ないぞ)
金型Gr-B(ぽかん):
「測定は正しかったのに、答えは測定外にいました……。」
トワ:
「何を測るかを決めるのが設計。今回は時間と不要接触を測っていなかった。
設計の盲点は測定の盲点に伝染する。」
スチール猫:
「盲点って目薬させない場所。猫の背中もそれ。」
ケニ:
「結果があるなら原因が必ずある。見えないなら、挙げる→観る→論理で消す。
今日は不要な押さえが消えた。」
第五幕 Mr.シュガー再登場と、会話の作法
営業部長:
「移管前に、そこは見抜けなかったのか?」
Mr.シュガー:
「言ったんだけどなぁ~、トライしっかりねって。
(スマホ連打:取り合えず現地語でメール)今も言っとくよ、しっかり。」
ケニ:
「しっかりは動詞じゃない。図と数値とタイミングで言え。
言葉は軽い、図は重い。現場は重いほうから動く。」
トワ:
「立会い=『見る→図にする→仮説→潰す』。
電話=『聞く→伝言→安心』。
安心は改善ではない。」
スチール猫:
「「にゃるほど!『押さえ圧』が伝言ゲームで『押さえ(お札)』に変わって、誰も現場を見なくなるにゃ。最終的に『カネ型』の話だけ残るにゃ!」」
品証部長:
「帳票を量×面の二軸へ改定。
サイドピアス周囲以外の押さえ禁止を標準に入れる。」(金型標準に口出すな!)
技術部長:
「工程連続図に押さえ当たりを必須化、前後工程・アイドルの不要接触ゼロを監査項目へ。」
現場オペレーター:
「押さえ帯7mm、覚えました。他は全部ニゲ、覚えました。次からこの事例を活かします」
スチール猫:
「「にゃるほど!『押さえ帯7mm』は覚えたにゃね~。じゃあ、これが『材料ロットが突然変わったとき』の試験に出たらどうするにゃ? もちろん『現場力テスト』にゃ!」」
第六幕 トワが多めに斬る・核心セット
トワ:
①測定OKは現象OKの証明ではない。測ってない軸(時間・接触・順序)が残っている。
②局所0.2mm移動の善意は、因果を隣へ押し出すだけ。システムは整合で見る。
③無駄な押さえ過ぎは摩擦の自作自演。必要十分を言語化しない設計は、現場に傾きを配布する。
④ヒアリングは証言、スケルトン列は物証:事実。裁判なら物証が勝つ。
スチール猫:
「物証、モショー。Mr.ショーガー、今日は出演多いね。」
Mr.シュガー:
「物証、モショー。ええと、言ったんですけどなぁ~。『この件、これでOKって言ったんですヨ。』…(スマホ連打)誰が言ったかって?えーと、誰だったかなぁ? でも、大丈夫だそうですヨ。」
ケニ:(Mr.シュガーの言葉に、心底呆れながら)
「言った? 言ったという『行為』が、技術的な『根拠』になるのか? あんたの仕事は、『伝言ゲームのオウム』じゃない。その『OK』が、摩耗粉の発生、チッピングの再発、そして未来の賠償金に、どう責任を持つのかを説明することだ。あんたの『大丈夫』は、誰の命も守れねぇ。」
トワ:(静かに、しかし冷酷な皮肉を込めて)
「『言った』、そして『大丈夫』。これは、責任転嫁の黄金律だな。『誰でもない人間』が『何でもない安心』を伝えている。あんたの存在は、伝言ゲームで押さえ圧が『押さえ(お札)』に化ける、組織の病理の縮図だ。」
スチール猫(突然、Mr.シュガーに詰め寄りながら) 「Mr.シュガー!お前、物証がないのに『大丈夫』って言うのかにゃ!?お前がやってんのは『安心料のツケ払い』だにゃ!『誰かから聞いた』って、それ『夢の中で聞いた』のと同じだにゃ!」
ケニ(スチール猫の言葉を受け、Mr.シュガーに静かに、決定的な言葉を突きつける) 「もう分かった。あんたの言葉はいらん。 見ろ。見るより、図にしろ。図にしたら、消せ。――それが、あんたに足りない技術者の魂のプロセスだ。」
あとがき(対話たっぷり版)
スチール猫:
「今日の学び:押さえ過ぎ注意。恋も金型も距離感が命。近すぎるとカジリ、遠すぎるとサビ。」
トワ:
「距離は機能。機能は定義。定義は図。だから図が勝つ。」
ケニ:
「図で勝つ。それなら俺たちはやれる。
見えない力も、図にすれば見える。
見えたら、消せる。それで十分だ。」
スチール猫:
「毛アレッボハ! 最後に宣言:押さえ7mm、図面∞(無限大)、そして……! 現場から緊急警報! 今、猫の聴力、全域でゼロdB!嗅覚、測定不能(無限大)!しかし、腹の爆音は100dBオーバーにゃ!このままじゃ、金型のパンチが腹の振動と共鳴して、全部『ツナ缶の蓋』になるにゃ! ツナ缶400gで五感の復旧を要請するにゃ!直ちにツナ缶支給せよ!!」
現場に貼る三か条(今回の決定)
- 押さえは機能点だけ:サイドピアス周囲 片側約7mm帯のみ保持、その他は全面ニゲ。
- 工程連続図へ押さえ当たり常設:前後工程・アイドルの不要接触ゼロを監査項目化。
- 量×面の二軸管理:寸法/同軸/せん断量(量)に加え、面粗さ・面観察(面)を常時記録。
ナレーション:
こうして測定OKなのに壊れるピンチアラームは、押さえ設計を言語化することで静かになった。
次の問題もきっと見えない顔をして来る。だが、図にして、見て、消す。
それが、アストロ工業の夜の仕事だ。

