ドングリは「引き金」か、「最後の防波堤」か
1.秋の夜、ふたたび
ナレーション
秋の夜。
前回と同じ机の上には、金型図面とノートPC、それから今度はドングリ豊凶マップと環境省の熊被害グラフが散らばっている。
ケニ、スチール猫、トワ。
そこに今日は新たなゲスト~
- 熊行動研究家:森(もり)先生
- 堅果類豊凶調査員:木実谷 徹(このみや・とおる)さん
も加わり、テーブルはさらにカオスな状態だ。
2.まずは「ドングリ容疑者」を正面から
ケニ
「よし、今日はちゃんとドングリを正面から敬おう。
A2(餌不足説)をぶった切る前に、
まずは“秋の熊にとってドングリとは何者か”を整理したい。」
スチール猫
「通説のA2をいったん降ろすにしても、
容疑者としてちゃんと事情聴取はするわけだニャ。」
トワ
「そうそう。
前回は A2だけで本因と決めつけるのは危ない という話をしたけど、
今回は逆に、A2の中でも一番重要なパーツ――ドングリ――を、
きちんと理論とデータで再評価する回だね。」
3.熊の一年の「食べ物カレンダー」
トワ
「まず、熊の一年の食生活をざっくりおさらいしよう。
木実谷さん、ざっくりでいいのでお願いします。」
木実谷
「はい。ものすごくシンプルにすると、こんな感じです。」
春(4〜6月):
――草本類の新芽、山菜、ササ、アリや昆虫、場合によっては動物の死骸夏(7〜8月):
――草、昆虫、ベリー類(地域による)、時に人里近くの農作物秋(9〜11月):
――ドングリ(ブナ、ミズナラなど堅果類)+時々クリ・果樹・農作物冬(12〜3月):
――冬眠(=蓄えた脂肪だけで生きる)
木実谷
「ポイントは、秋だけ役割が違うということです。
春夏のエサは主に その日を生きるためのカロリー。
でも秋のドングリは、冬眠中まで含めた半年分の燃料タンクを埋める役割を持っています。」
ケニ
「つまり、
春夏のエサは 今の生活費、
秋のドングリは 半年分の前払い家賃とローンみたいなもんか。」
森先生
「それくらいの違いがありますね。
熊は秋に体重の30〜40%を脂肪として上乗せする個体もいます。
ドングリは高脂質・高カロリーで、それを数週間〜数ヶ月で一気に稼ぐための集中インフラなんです。」
スチール猫
「森のガソリンスタンドだニャ。
しかも、給油所はドングリの樹のところだけ。」
トワ
「そして重要なのは――
ガソリンスタンドが閉まる(大凶作)と、
それは熊にとってほぼ 死刑宣告 に近いプレッシャーになるってことだね。」
4.「ドングリ5段階」と過去11年のデータ
ケニ
「理屈は分かった。
じゃあどれくらい出来た年に、どれくらい人が襲われてるのか
ここが本題だろ?」
トワ
「そこで、2015〜2025年の11年分について、
ざっくりドングリ指数(1〜5)と、人身被害者数を並べてみた。」
木実谷
「指数はこんなイメージです。」
- 5:大豊作
- 4:豊作
- 3:並作
- 2:凶作
- 1:大凶作
トワ
「で、4月の太陽フレア(A1側)も、静穏/中/活発の3段階で整理。
結果だけ、ざっくりパターンで話すね。」
パターン①:ドングリ豊作の年(指数4〜5)
トワ
「2018, 2021, 2022, 2024年なんかがこれ。
ドングリ豊作+人身被害100人未満ってパターン。」
木実谷
「特に2022年は、4月にXクラスの強いフレアが出た年でもあるんですが、
ドングリが豊作だったので、人里への被害は抑え込まれているのが特徴です。」
森先生
「熊から見れば、
山のガソリンスタンドがフルオープンなので、
わざわざ街まで出て行く理由がない
という状態ですね。」
ケニ
「ここは通説A2がキレイに効いてるエリアだな。
『餌があれば下りない』っていう、いちばん素直な部分。」
パターン②:フレア静穏+ドングリ凶作(2019, 2020)
トワ
「次。
4月のフレアは静穏(ブースターOFF)だけど、
ドングリが凶作(指数2)だった年。
2019年、2020年が代表だね。」
森先生
「この年は、人身被害が150人前後まで増えています。
これは飢餓モデルとして、ある意味、筋が通る数字です。」
スチール猫
「山のガソリンスタンドが閉まったので、
仕方なく街のコンビニ(畑・果樹園・ゴミステーション)に来ました、
ってモードだニャ。」
ケニ
「ここまではA2的にも理解できる。
『ドングリ凶作 ⇒ 飢えた熊が下りてくる ⇒ 事故150人くらい』
これが飢餓だけで説明できる天井値ってことだな。」
パターン③:フレアON+ドングリ大凶作(2023, 2025)
トワ
「問題はここから。
2023年と2025年。
4月のフレアが中〜活発で、しかもドングリが “1:大凶作”。」
木実谷
「この2年は、被害者数が220人レベルまで跳ね上がっています。
2019・2020年の飢餓だけの150人ラインから、
さらに70人分くらい上に乗っている。」
森先生
「現場感覚でも、
『2020年の熊』と『2023年・2025年の熊』はノリが違うと感じます。
前者は 山が厳しくて降りてきた に近い。
後者はもっと、人間を恐れず、都市部にまでズカズカ入ってくる感じ。」
ケニ
「つまり、
ドングリだけ(A2)で説明できるラインが150人。
220人まで突き抜けてる分は、何か別の要因が上乗せされている
…って見方ができるわけだな。」
トワ
「その何かを、俺たちはA1(太陽フレア×冬眠脳)として仮置きしてるわけだね。」
5.A2の役割:ドングリは「行動範囲」を決める
スチール猫
「ここまで整理すると、
ドングリはA2世界のボスキャラってことは認めざるを得ないニャ。」
トワ
「うん。
ドングリの役割を、あえて技術的な言葉にすると――」
ドングリ(堅果類の豊凶)は、
熊が山に留まるか、人里に出てくるかという「行動範囲」を決めるゲート
である。
森先生
「餌が豊富なら、多くの個体は山でループする。
凶作や大凶作なら、山ループから弾かれた個体が
人里ルートへ流れ出てくる、というイメージです。」
ケニ
「つまり、物理的に下りてくるかどうかはA2(ドングリ)の支配領域。
ここまでは通説をちゃんと認める。」
スチール猫
「でもケニが引っかかっているのは
下りてきた熊の中身が、2023年以降なんか違うってとこだニャ。」
6.A1の役割:フレアは「性格」を変えるブースターか?
ケニ
「そう。
2020年の熊は、お腹空かせて仕方なく下りてきた感が強い。
ところが2023年と2025年は、
『人間を見ても逃げない』『都市の中心部まで堂々と出てくる』
ここのノリの違いをどう説明するかなんだ。」
トワ
「そこで出てくるのが、前回まとめた A1仮説――
『4月のフレアが、冬眠明けの脳の再起動にノイズを入れて、
F(恐怖)↓、A(攻撃)↑ のモードに一部個体を固定してしまう』ってやつだね。」
森先生
「A1を完全に証明するデータは、まだ存在しません。
ただ、現場で起きている質の変化を見ようとするなら、
A2(餌)とは別の軸――脳やホルモンの変化――を考えざるを得ない局面にきているとも感じます。」
スチール猫
「つまりこうニャ。」
- A2(ドングリ):
熊を山から人里へ“押し出す力”=行動範囲のスイッチ - A1(フレア):
熊の“恐怖心や攻撃性の設定値”をちょっとずつずらす=性格のブースター
ケニ
「この二つが別々のレバーだと考えると、
2020年と2025年の違いがすごく腑に落ちる。」
7.ケーススタディ:2020年と2025年
トワ
「じゃあ、象徴的な2年を並べて見てみよう。」
■ 2020年
- フレア:静穏(ブースターOFF)
- ドングリ:凶作(指数2)
- 被害:約158人
ケニ
「これは飢餓だけモデル。
ドングリが足りなくて、熊が物理的に下りてきた。
危ないけど、まだ常識的な範囲の熊って感じだな。」
■ 2025年
- フレア:活発(4月にXクラス含む)
- ドングリ:大凶作(指数1)
- 被害:220人オーバー(継続中)
スチール猫
「こっちは“飢餓+何か”。
ドングリで押し出されただけじゃなくて、
“ノリが狂った熊”が混じってる感じだニャ。」
ケニ
「だから俺は、
A2(ドングリ)だけで 今の熊 を語るのは危険だと言ってるわけだ。」
8.第二弾のまとめ:A2を認めたうえで、それでも残る「余白」
ケニ
「よし、じゃ今回のまとめいくぞ。」
- ドングリは、秋の熊にとって その冬を生き延びるための燃料タンクを埋める唯一のインフラ
だからこそ、豊作なら山に留まり、凶作なら人里に押し出される。
→ A2世界の行動範囲スイッチとして、ドングリの重要性は否定しない。 - 2019・2020年のように、「フレア静穏+ドングリ凶作」の年は、
飢餓による出没増加が150人ラインまで押し上げる。
→ ここまでは「飢餓モデル」で説明がつく。 - しかし、2023・2025年のように「フレア活発+大凶作」が重なった年だけ、
被害が220人ラインまで跳ね上がり、質の違うノリが現場で観測されている。
→ A2だけでは余剰分(70人レベル+質の変化)を説明しにくい。 - その余剰分を説明する本因Xの候補として、
A1(太陽フレア×冬眠明けの臨界脳ズレ仮説)を置いているが、
これはまだデータ不足の仮説段階に過ぎない。
スチール猫
「要するに――」
「ドングリが大事なのは間違いない。
でも、ドングリだけじゃ2025年の熊は説明しきれないかもしれない。」
トワ
「そう。
A2(餌)の顔をちゃんと立てたうえで、
その外側に 脳の質を変える本因Xがないか? と問い直している。
それが今回、第二弾でやったことだね。」
森先生
「通説を否定するためではなく、
通説では説明しきれない部分をきちんと切り分ける作業。
これは学問でも現場でも、とても大事な態度だと思います。」
ケニ
「俺は、
俺のA1説が正しいんだ!なんて言う気は毛頭ない。
ただ――
『ドングリだけ見て 原因はこれですと言い切った瞬間、
本当の本因を見逃すかもしれないぞ』
という警鐘は鳴らしておきたい。」
スチール猫
「金型もそうだニャ。
見えてるバリだけ削って安心してると、
図面の根本ミスを見逃す、あれだニャ。」
トワ
「その通り。
だからこのあとケニが貼る2015〜2025データの説明パートは、
A2(ドングリ)とA1(フレア)の役割を、もっと論文っぽく整理した 技術付録 だと思って読んでもらえるといいかもね。」
ナレーション
こうして第二弾は、
「ドングリをちゃんと見直したうえで、
なお残る質の変化の余白をどう扱うか」
という地点にたどり着いた。
次回、第三弾。
メガソーラー、風力発電、個体数3倍――
A2側の「よく言われる話」を、今度は別の角度から分解していくことになる。
(続く)
- 1.秋の夜、ふたたび
- 2.まずは「ドングリ容疑者」を正面から
- 3.熊の一年の「食べ物カレンダー」
- 4.「ドングリ5段階」と過去11年のデータ
- 5.A2の役割:ドングリは「行動範囲」を決める
- 6.A1の役割:フレアは「性格」を変えるブースターか?
- 7.ケーススタディ:2020年と2025年
- 8.第二弾のまとめ:A2を認めたうえで、それでも残る「余白」
- ◆説明メモ (第二弾用)
- 1. 解析に使った3つの軸
- 1.5 秋の熊にとって「ドングリ」とは何か
- 2. 年度別データ一覧(2015〜2025)
- 3. データから見える3つのパターン(要約)
- 4. まとめ:ドングリ=行動範囲、フレア=性格のブースター
- 【補足】一年を通したクマのエサの変化と、その「目的」
- ⑤ まとめ:エサの「目的」が変わる一年サイクル
◆説明メモ (第二弾用)
2025年クマ異常行動の要因分析(データ&理論メモ)
― 4月フレアとドングリ豊凶のシナジーをどう見るか ―
1. 解析に使った3つの軸
この内部メモでは、次の3つの指標だけに絞って整理している。
- 4月の太陽フレアレベル(ブースター)
- 静穏:Mクラス以上のフレア観測なし
- 中程度:Mクラスのフレアが散発
- 活発:Xクラスを含む強いフレアが観測
- 全国平均ドングリ指数(引き金)※5段階
- 5:大豊作
- 4:豊作
- 3:並作
- 2:凶作
- 1:大凶作
- クマによる人身被害者数(環境省公表値ベースのオーダー)
- 年間のおおよその人数(ざっくりの大きさ)
1.5 秋の熊にとって「ドングリ」とは何か
ここを押さえておかないと、この先の表の意味がぼやけるので、先に整理しておく。
① 冬眠という「無補給ミッション」
- クマは冬眠中、数か月間ほぼ飲まず食わずで過ごす。
- メスの一部は、その間に出産〜授乳までやり切る。
この無茶なミッションを支えるのが「秋までにため込んだ脂肪」で、
冬眠中は
- 体温を落とす
- 心拍を落とす
- 代謝をギリギリまで絞る
ことで、ひたすら脂肪を燃やしながら乗り切る。
② 秋は「過食期(hyperphagia)」=燃料かき集めフェーズ
このため、秋のクマは
- 1日中歩き回って
- 食べられる限り食べ続ける
という過食モード(hyperphagia)に入る。
ここで必要なのは
- 草や昆虫のような「薄いカロリー」ではなく
- 脂質リッチな高カロリー燃料
だ。
③ 日本の森で「高カロリー・高効率」を満たすのはドングリだけ
日本の山林で、熊の「冬眠用の燃料」として機能するのは、ほぼブナ・ミズナラなどのドングリ類だ。
理由はシンプルで、
- 脂質が多く、カロリー密度が高い
- 一本の木に大量に実るので、回収効率が高い
- 毎年、同じ場所にまとまって出現する安定インフラ
という条件を満たすから。
雑草や虫も食べるが、
「冬眠を乗り切るだけの脂肪を数週間でためる」という意味では、
ドングリが ほぼ唯一の主燃料
ドングリの凶作は 燃料供給ラインの崩壊
に近い。
④ 「凶作」は単なる空腹ではなく「死のカウントダウン」
したがってクマにとって、
- 豊作:
→ 冬眠に必要な脂肪が十分貯められる
→ 山に留まったまま冬に入れる - 凶作〜大凶作:
→ 冬眠用の脂肪が致命的に足りない
→ 「山に残れば、冬の途中で死ぬ」リスクが現実化
→ それでも脂肪をかき集めるために、危険を承知で里へ降りざるを得ない
という構造になる。
つまりドングリは、
単なる「好物」ではなく、
「冬眠の成否=生死を分ける燃料」 そのものであり、
その凶作は、熊にとって 死の宣告に近い圧力 になる。
この前提を頭に置いたうえで、次の10年分データを見ると、
「なぜ凶作の年だけ被害が跳ね上がるのか」がスッと理解しやすくなる。
2. 年度別データ一覧(2015〜2025)
| 年度 | 【ブースター】4月のフレア | 【引き金】ドングリ指数 | 【結果】人身被害者数 | 【仮説ベースのコメント】 |
|---|---|---|---|---|
| 2015 | 中程度(Mクラス散発) | 2(凶作) | 100人以上 | シナジー(中)…ブースター+引き金 |
| 2016 | 中程度(Mクラス散発) | 2(凶作) | 140人以上 | シナジー(中)…ブースター+引き金 |
| 2017 | 中程度(Mクラス散発) | 2(凶作) | 120人以上 | シナジー(中)…ブースター+引き金 |
| 2018 | 静穏 | 4(豊作) | 約70人 | 平穏年(餌が山に十分) |
| 2019 | 静穏 | 2(凶作) | 約150人 | 引き金のみ(飢餓) |
| 2020 | 静穏 | 2(凶作) | 158人 | 引き金のみ(飢餓) |
| 2021 | 静穏 | 4(豊作) | 81人 | 平穏年 |
| 2022 | 活発(Xクラス含む) | 4(豊作) | 75人 | ブースターのみ(狂暴化ポテンシャルはあるが、餌が足りている) |
| 2023 | 中程度(Mクラス) | 1(大凶作) | 219人 | 【最悪のシナジー】狂暴化+飢餓 |
| 2024 | 中程度(Mクラス) | 4(豊作) | 45人前後 | ブースターのみ(餌が足りて平穏) |
| 2025 | 活発(Xクラス) | 1(大凶作) | 220人超(見込み) | 【最悪のシナジー】狂暴化+飢餓 |
※ドングリ指数は「全国平均の傾向」を5段階に丸めたもの。
※フレアレベルは4月時点の「その年の顔」としての目安。
3. データから見える3つのパターン(要約)
※ここは前回と同じ流れなので、短く要約だけ。
- 豊作年(指数4〜5)
- 2018, 2021, 2022, 2024
- → 被害は例外なく100人未満
- → ドングリが十分あれば、フレアがどれだけ強くても熊は基本「山にいる」。
- 凶作年(指数2)かつフレア静穏
- 2019, 2020
- → 被害は150人前後
- → 「冬眠燃料が足りないから、命がけで里へ降りる」=飢餓モデルの上限値。
- 大凶作(指数1)かつフレアON
- 2023, 2025
- → 被害は220人ゾーンへジャンプ
- → 飢餓に加えて、「春のフレアで中身の設定値がズレた熊」が混ざった結果として、
- 人間を見ても逃げない
- 都市部の奥までズカズカ入る
- 攻撃のノリが変わる
という「質の変化」が上乗せされている可能性。
4. まとめ:ドングリ=行動範囲、フレア=性格のブースター
この第二弾での立ち位置を整理すると、
- ドングリ(餌)
→ 熊にとっては「冬眠を生き抜くための主燃料」。
→ その凶作は、熊を山から押し出す行動範囲側の引き金。 - 4月フレア(太陽活動)
→ 冬眠明けの脳とホルモン再設定タイミングにノイズを入れ、
→ 「恐怖心F」「攻撃性A」「探索ドライブH」といった性格側の設定値を少しズラす「ブースター」かもしれない。 - A2(ドングリ不足だけ)で説明できるのは
→ 2019〜2020年レベルの「飢餓による150人ライン」まで。 - A1+A2が同年に重なったときだけ起きているのが
→ 2023・2025年型の「220人ゾーン」と「ノリの異常化」。
現時点では、これはあくまで「現場の違和感に合わせて組み上げた仮説」に過ぎない。
それでも、
・ドングリの重要性を正面から認めた上で、
・それでも説明しきれない質の変化の余白に、
太陽フレアという別レイヤーを仮置きする
──という思考の枠組みそのものが、
「A2だけで思考停止しないための一つの道具」になればいい、というスタンスだ。
【補足】一年を通したクマのエサの変化と、その「目的」
ここまで「ドングリ」の重要性を中心に書いてきたけれど、
クマの一年を通したエサの変化をざっくり押さえておくと、
「なぜ秋だけがここまで命がけになるのか」がもっとクリアになる。
① 春(冬眠明け)──「エンジン再始動と体の修理」
冬眠明けのクマは、見た目以上にボロボロだ。
- 何か月もほぼ飲まず食わず
- 代謝を極端に落としてしのいできた反動
- 筋肉は落ち、内臓にも負担がかかっている
このタイミングでクマがまず狙うのは、
- 若い草・芽・山菜類
- アリや昆虫、ミミズなどの小動物
- 場所によってはフキノトウ、ザゼンソウの芽など
といった、消化しやすく水分も多い「軽めのもの」だ。
この時期の目的は、
- いきなり高カロリーを詰め込むことではなく
- 腸を動かし直し、体のスイッチを「冬眠モード→活動モード」に戻すこと
- 失われた筋肉や体力を少しずつ回復させること
いわば「ゆっくりエンジンを温め直すフェーズ」だ。
② 初夏〜夏──「筋肉と体力の回復、成長」
気温が上がり、山に緑と命が満ちてくる季節。
この頃のメニューは、かなり幅が広がる。
- 各種植物(草、葉、タケノコ、実のなり始め)
- アリ塚を壊してアリ・幼虫
- ハチの巣を襲って幼虫や蜂蜜
- 小型哺乳類や鳥のヒナ、魚 など
この時期の目的は、
- 筋肉と体力の「再構築」
- 子連れのメスにとっては子育てのためのエネルギー補給
- 若い個体にとっては成長と活動範囲の拡大
秋ほどの「必死さ」はないが、
冬眠明けのダメージから本格的な「活動モード」に体を作り替える、
土台づくりの時期と言える。
③ 秋──「過食期(hyperphagia)=冬眠燃料の総取り」
そして問題の秋。
ここで主役として登場するのが、
- ブナ・ミズナラなどのドングリ類
- 地域によってはクリ、クルミ、トチなどの堅果類
- 沿岸部ではサケ・マスなどの回遊魚
という、脂質を大量に含んだ「高カロリー燃料」だ。
この時期のクマは、
- 起きているあいだはほぼずっと食べ続ける
- 行動範囲も大きく広げて「燃料スタンド」を巡回する
- 一日に摂るカロリーは、春〜夏とは比べ物にならない
目的はただ一つ。
冬眠中に何か月も燃やし続けるための脂肪を、短期間で限界までため込むこと。
ここでの失敗は、
- 単なる「お腹が空く」ではなく
- 「冬眠中にガス欠になって死ぬ」リスクに直結する。
だからこそ、
- ドングリ豊作 → 山の給油所がフルオープン → 山にとどまっても勝負になる
- ドングリ凶作 → 給油所が壊滅 → 命がけで人里・農地・果樹園へ出ざるを得ない
という形で、行動範囲そのものを押し広げる「圧力」として効いてくる。
④ 冬〜冬眠中──「エサは食べず、脂肪だけを燃やして生きる」
冬眠中は、基本的に外部からエサを取らない。
- 体温・心拍・代謝をギリギリまで落とす
- 筋肉を分解しすぎないよう気をつけつつ、
- 秋にため込んだ脂肪だけを燃料にして生きる
この期間に食料が入らない、という前提があるからこそ、
「秋だけが異常なまでに重い意味を持つ」わけだ。
⑤ まとめ:エサの「目的」が変わる一年サイクル
一年を通して整理すると、クマのエサの「目的」はざっくりこう変わる。
- 春:
→ 冬眠明けの「再起動」と内臓の立ち上げ。
→ 体を壊さずにシステムを戻すための「リハビリ食」。 - 初夏〜夏:
→ 筋肉・体力・成長のための「基礎体づくり」。
→ 行動範囲を広げ、学び、子を育てる時期。 - 秋:
→ 冬眠という無補給ミッションを乗り切るための「燃料満タン化」。
→ ここでの失敗=冬のどこかでゲームオーバー。 - 冬(冬眠中):
→ エサは取らず、秋の努力だけで生き延びる「消費フェーズ」。
この流れを前提に見ると、
- ドングリの凶作は
→ 単なる「秋の一時的な空腹」ではなく
→ 翌年春まで続く「生存確率の大幅ダウン」につながる重大事であり、
そこに
- 4月フレアによる「脳の設定値のズレ(性格側の変化)」
が重なった年だけ、
「命がけで山を出ざるを得ない」
+
「人間を恐れにくくなっている」
という、最悪の組み合わせが発動する――
というのが、今回の第二弾で扱っている構図になる。

