第16話:6mmズレたのは穴か、良心か

経験談

~四井金族アムア「超理不尽事件簿」~

0. 熊の話ばかりしててごめんなさい

ケニです。

ここしばらく、ブログでは

  • 「熊の異常行動」
  • 「ブナの凶作」
  • 「人間社会と熊の民族移動」

と、熊ネタ3連発で走り抜けてしまいました。

プレス解析庵なのに、
「お前、最近プレスじゃなくてプーさんばっかりじゃねえか」
と、どこからか聞こえてきそうなので(笑)、

今日は久々にガチのプレス技術 × 人間ドラマの話に戻ります。

ただし、
これは「技術ネタ」でもありながら、
同時に 企業という生き物の理不尽さがモロに出た話。

俺の前職、
四井金族アムアで実際に経験した出来事を
固有名詞だけぼかして、生々しく共有しようと思います。

1. 登場人物紹介(プレス解析庵サイド)

まずは、恒例のキャラ紹介から。

◆ ケニ

  • 本編の語り手。元・四井金族アムア 技術部 金型技術G
  • 現場・金型・材料の「気持ち」が身体で分かるタイプ。
  • だが、会社の論理と折り合いがつかないとすぐ胃が痛くなる人

◆ トワ(スチール・カピバラ)

  • プレス解析庵の「クールな分析官」。
  • 口ぐせは、
    「数字と流れを追えば、人間の嘘も見えてくる」
  • 皮肉屋だけど、本質をズバッと言う。

◆ スチール猫

  • 庵のマスコット兼ボケ担当。
  • 技術の難しい話を、
    なぜか ブラック企業あるある に変換するスキル持ち。
  • よく言う台詞は、
    「その対策、誰の寿命を削るニャ?」

2. 会社側&外部キャラ紹介

◆ 踏反(ふんぞり)本部長

  • 四井金族アムア 技術本部長。
  • いかにも「椅子に踏ん反り返る」タイプ。
  • 決め台詞:
    「俺が約束してきてやったんだ。あとはお前らで何とかしろ」

◆ 波良(なみら)技術部長

  • 技術部トップ。
  • 口では「技術が一番だ」と言いながら、
    実際には「上の顔色」が最優先。
  • 他人の努力にだけ乗るのが上手い人。

◆ 高桃(たかもも)課長

  • どこにでもいる「他人事の中間管理職」。
  • 口癖:
    「僕は忙しいから、出来上がった資料にコメントだけ書くね」

◆ 田中課長(試作G)

  • ケニの味方であり、現場寄りの常識人。
  • 「やることはやった、帰ろう」と言いつつも、
    本当はケニの執念も理解している。

◆ 目産(めさん)サイド

  • 坂井(さかい):30代前半の若手品証。
    ロジックと現場のギャップに敏感で、
    「なんか変だな…」を飲み込まされ続けている。
  • ベテラン品証/調達担当:
    「前例」と「帳票」が大好物。
    「再発防止=紙を増やすこと」だと信じている。

◆ 韓国・パンニハムハサムダニ工業

  • 朴(パク)社長
    韓国の現地経営者。
    板厚は「規格内ならど真ん中を使うのが普通だろう」という感覚。
    日本側が“薄い側ばかり使ってた”と聞いて、
    「それ、逆に不良じゃないのか?」と内心突っ込んでいる。

3. 導入:プレス解析庵の夜

ケニ「…というわけで、熊の話ばかりしてたら、
 お前の本職なんだっけ?って自分でも分からなくなってきてな。」

スチール猫「熊も人間も、ネジが3本くらい飛んでるとこは同じニャ。」

トワ「じゃあ今日は、
 ネジが飛んでたのは熊じゃなくて会社だった話
 をやろうか。」

ケニ「おう。
 俺の前職、四井金族アムアでの超理不尽案件だ。
 タイトルを付けるなら──
 『6mmズレたのは穴か、良心か』 ってとこかな。」

4. 工場閉鎖と「韓国旅行」命令(えぐり増し)

地方のある工場。
そこは、本来なら閉鎖される理由が一つもない工場だった。

  • 量産立ち上げ成功
  • 不良率も低い
  • 売上も右肩上がり
  • 自分たちで勉強して、若いのも育ってきていた

それでも、その工場は親会社のメンツ(本来潰すはずだった駄目工場が役員の出身地)のために閉鎖が決まった。

「数字じゃない。大人の事情だ」

って一言で片づけられたとき、
「会社って、そういうもんだよ」と笑い飛ばせるほど、俺は器用じゃなかった。

閉鎖が決まり、移管が進む中、
俺は本社側の 「技術部 金型技術グループ」 に異動になった。

ある日の夕方、17時頃。
図面を眺めていると、内線が鳴る。

「ケニ、本部長室まで来い」

本部長室のドアを開けると、
灰皿には吸い殻が山のように刺さり、
古びたソファに 踏反本部長波良技術部長 が沈み込んでいた。

安い缶コーヒーとタバコの匂い。
ここだけ、別の時代の空気みたいに淀んでいる。

踏反本部長
「ケニ。お前、今から韓国へ旅行に行ってこい。」

ケニ「……旅行、ですか。」

踏反本部長
「そうだ。釜山だ。
 お前一人だと心細いだろうから、田中がお前を連れていく。」

波良技術部長
「ミッションはこうだ。
 韓国の パンニハムハサムダニ工業 で作ってる
 目産【アレナ】のトランクヒンジ、
 穴が6mmズレる不具合 が出ている。
 原因を調査し、
 問題は解決したという形にして戻ってこい。」

ケニ(心の声)
「形にしてって何だよ…。
 まだ何も見てないうちから、形の話かよ。」

ソファの上は、
技術じゃなくて形の言葉だけが飛び交っていた。

5. 釜山到着と朴社長の「板厚常識」(濃いめ)

翌日、俺と田中課長は釜山に降り立った。

空港を出ると、独特の湿気と排気ガスの匂い。
車で1時間ほど走り、パンニハムハサムダニ工業に着く。

工場の中は、
プレス機の ドン、ドン、ドン というストローク音と、
油と鉄粉が混ざった匂いで満ちていた。

会議室に通されると、
現地トップの 朴(パク)社長 とスタッフたちが整列して待っていた。

朴社長
「ケニサン、遠いところありがとうございます。
 トラブルでご迷惑おかけして、スミマセン。」

ステンレストレイの上には、
目産アレナ車のトランクヒンジがずらりと並んでいた。

板厚4.0mm、SAPH440同等。
ヒンジ部には軸が入り、ボディ側には取付穴が二つ。

不具合内容はシンプルだが致命的だった。

  • 数万台を生産
  • うち 26個 が、
    トランク閉まりNGの「穴位置6mmズレ」

田中課長
「数万分の26か。一番イヤなパターンだな。」

ケニ
「全数でズレるなら、どこかが根本的に間違ってる。
 でも、26個だけってことは──
ある条件が揃ったときだけ何かが起きてる。

朴社長の胸の内

(朴のモノローグ)

「板厚4.0mmのコイルを買えば、
4.0 ±0.05 のど真ん中が来る。
それを前提に金型設計してないのか?

日本の本社は安いからと言って
薄いほうばかり選んでいたのか?
それでいて、問題が出たら
韓国側の管理が悪いで済ませようとしてないか?」

朴は笑顔を崩さない。
だが目の奥には、

「この勝負、俺たちにだけ責任を押しつける気なら、
その馬鹿さ加減はちゃんと見ているぞ」

という固い意思があった。

6. 金型調査:当たり前のところから全部潰す(肉体労働モード)

まずは定石どおり、穴あけ工程から潰していく。

  • 外径基準で穴位置測定 → ほぼ変化なし
  • パイロットのガタ → 許容内
  • ストリッパーばね → 折れなし、ヘタリも目立たず
  • ダイの欠損・割れ → なし

ケニ
「もし穴あけ位置が根本的にズレていたら、
 26個どころじゃ済まない。
 ライン全部が地獄になるはずだ。」

昼を過ぎても、
油にまみれたワークとゲージを握り続ける。

測定台の上は、
OK品とNG品とよく分からないグレーな品で埋まっていく。

トワ(解説)
「ここでケニがやってるのは、
 全数不良になるレベルの原因を先に潰す作業
 レア不良の時は、
 この見込みを切り捨てる根気が一番しんどい。」

現場の騒音の中で、
通訳を挟んで何度も同じ説明を繰り返す。

  • 「この寸法はOK」
  • 「ここは異常なし」
  • 「でも、じゃあ何が悪いのか?」

夕方には、
指先がマイクロメーターの形に固まったみたいに感じた。

7. 曲げ・絞り工程の空振りと、イヤな電話

次に怪しいのは、
「コの字曲げ+絞り工程」だった。

この工程は、

  • 板が曲がり
  • パッドで押さえられ
  • 絞られ
  • 最後に軸穴側の腕がストッパーに「コツン」と当たる

そこで初めて、穴の位置が確定する。

ケニ
「6mmズレるってことは、
 ストッパーに当たる前に加工が止まっている可能性が高い。」

金型を分解していくと、
上型側のパイロットピンφ13(8本)のうち数本が、
先端だけ不自然に摩耗して欠けていた。

ケニ
「来たな……。」

トワ
「仮説はこう。
 パイロットがダイに干渉 → 胴突きが甘くなる
 → 曲げ・絞りが不完全 → 腕がストッパーまで届かない。

ここからは完全に肉体労働モードだった。

  • トン数を落として安全確保
  • 上型をクレーンで吊り上げ
  • パイロットを外し、削り、交換し
  • ダイ側の穴を拡大してニゲを作る

現地スタッフの汗と油が混ざり合い、
工具の音が一日中鳴り続ける。

ケニ(心の声)
「ここで直ってくれ。
 頼むから、ここで決まってくれ。」

夕方16時、トライ。

新しい条件で打ち出されたワークを
測定台に並べ、穴位置を測る。

……ズレている。

ケニ
「……マジかよ。」

田中課長
「うわ、ここじゃなかったか。」

そのタイミングで、
田中課長の携帯が鳴る。

ディスプレイには「波良」の文字。

田中課長
「はい、田中です。……ええ、ケニも隣に。
 ……はい。……ええ……。」

スピーカーじゃないのに、
電話の向こうの声が漏れて聞こえる。

「何やってんだ!
まだ原因が分からんのか!
お前ら、旅行してる暇はないんだぞ!」

ケニ(心の声)
「旅行してる暇があるなら、
 一回ここに来てこの油の匂い嗅いでみろよ。」

8. ホテルの夜:諦める人と、諦められない人(えぐり足し)

その夜、ホテルの部屋。

薄いカーペットと、
どこか酸っぱい匂いのするエアコンの風。

ベッドの上にコンビニ弁当の容器を置き、
田中課長がビールを開けた。

田中課長
「ケニ。
 お前、よくやってるよ。
 やることはやった。
 明日は土曜だし、もう帰ろう。」

ケニ
「課長は、それでいいんですか?」

田中課長
「原因不明って報告するしかない時もある。
 お前だけの責任じゃない。」

そう言いながらも、
田中課長の目もどこか痛そうだった。

風呂に入っても、油の匂いが抜けない。
ベッドに横になっても、
頭の中ではプレスの ドン、ドン、ドン が鳴り止まない。

ケニ(心の声)
「原因不明と書いた瞬間、
 この不具合はまたどこかで牙をむく。
 そのとき血を見るのは、
 また現場の人間だけだ。」

眠いのに眠れない夜だった。

9. 板厚測定と0.2mmの衝撃(決定打の瞬間)

翌日。帰国前。

俺はどうしても諦めきれず、
もう一度だけ材料板厚を測ることにした。

同じコイル、同じロット。

  • 4.04
  • 4.05
  • 4.03

どれも、4.0mm規格のど真ん中+α

ケニ
「(教科書的には模範解答の板厚だ…。)」

そこで、頭の片隅に引っかかっていた記憶が顔を出す。

「そういえば、日本で使ってたコイル、
3.8mm台じゃなかったか?」

日本の現場に電話する。

ケニ
「今使ってるアレナ用コイル、
 実測でいいから板厚を測ってもらえますか?」

数分後、電話が戻ってくる。

「3.82 と 3.83 が多いですね。」

その数字を聞いた瞬間、
頭の中で LEDがパチッと点いた。

ケニ
「……そうか。
 この金型、薄い材料に合わせて設計してるんだ。」

金型図面をFAXで取り寄せ、
クリアランスとシゴキ量、ストッパー位置を追う。

どれも 3.8mm付近で「ちょうどいい世界」に設定されている。

  • 日本:3.82mm前後の薄め材+薄板用金型 → スムーズに動く
  • 韓国:4.0+αのど真ん中材+薄板用金型 →
    条件が重なるとストッパーに届かず、6mm手前で止まる

トワ
「つまり真因はこうだ。
 『薄板用金型 × 規格ど真ん中の厚板』のミスマッチ。
 だから、ほとんどのワークはギリギリ届くけど、
 条件が重なると届かない個体が出る。」

スチール猫
「猫ドアをやせ猫サイズで作ってたところへ、
 ちょっとムチムチの猫でかいタヌキが来ちゃった感じニャ。」

朴社長の視点:板厚の当たり前

(朴のモノローグ)

「日本の本社は、コストを下げるために
3.8mm くらいのコイルばかり選んでいたらしい。
だから、金型は実質3.8mm専用になっていた。

うちは、普通に4.0mm規格で真ん中の厚さを買っている。
それが原因だ、と言われても困る。
私から見れば、
薄いほうばかり使う日本側の方がむしろ特殊だ。

それでも、表向きは『うちの管理が悪くて…』と
頭を下げるしかない。
商売とは、そういうところがある。」

朴は最後まで、日本本社を責めなかった。
でも、その沈黙の中身は、俺には痛いほど分かった。

10. 日本に戻って:真因報告と「封印」

日本に戻った俺は、
踏反本部長と波良技術部長に報告した。

ケニ
「真因は材料板厚です。
 日本は実質 3.82mm。
 韓国は 4.0+α。
 金型は薄め板厚を基準に設計されていました。」

波良技術部長「ふむ。筋は通っているな。」

踏反本部長「……だが、それは目産には言えん。」

ケニ「なぜですか?」

踏反本部長
「目産には、この部品は
 お前がいた工場で作っていることになっている。
 実は韓国で作ってました、なんて言ったら大騒ぎだ。
 市場クレーム、リコール一直線だ。」

ケニ「でも、現実には──」

踏反本部長
「現実より、公式ストーリーが大事なんだよ。
 韓国で板厚の違う材料を使った、なんてことは
 物語から削除だ。」

トワ(解説)
「ここで、
 『技術の真実』と『会社のストーリー』が完全に分岐する。」

11. 改ざん指示:「原因を作れ」

波良技術部長
「そこでだ、ケニ。
 お前、韓国でいくつか仮説を立ててトライしたな?」

ケニ「パイロット長さとニゲ量の仮説ですね。
 でも、あれでは不良は消えませんでした。」

波良技術部長
「細かいことはいい。
 あれが原因だったことにするんだ。

ケニ「……。」

踏反本部長
「目産が欲しいのは真実じゃない。
 納得できるストーリーだ。
 韓国だの板厚だの持ち出すより、
 『閉鎖工場でパイロット長さとニゲを確認しなかった』
 って話の方がまだマシだろう?」

ケニ(心の声)
「パイロット改造では直らなかった。
 板厚ミスマッチこそ真因だ。
 それを封印して、外れた仮説を
 本当の原因に仕立て上げろってことか。」

12. プレゼン資料づくり地獄

そこからは、
技術検討ではなく“脚本制作が始まった。

  • パイロット長さを図面通りにしてしまった
  • ニゲ長さを実ワークに合わせてチェックしなかった
  • 移管・閉鎖のバタつきの中で初期生産チェックだけでOKと判断した

これらを「反省点」として盛り込んだ
ウソのプレゼン資料を作り続ける日々。

高桃課長
「ケニー、この資料さ、もっと現場がやらかしました感出してよ。
 管理の甘さとか、確認を怠ったとかさ。」

ケニ「…………。」

波良技術部長
「図も増やせ。
 素人でもわかるように。
 我々の落ち度です、でも二度とやりませんと
 見えるようにな。」

スチール猫
「それ、技術検討会”じゃなくて“言い訳コンペニャ。」

13. 目産でのプレゼンと、若手・坂井の違和感

プレゼン当日。
会議室には、目産の品証・調達のメンバーが揃っていた。

若手品証の 坂井 は、一番後ろの席から前方をじっと見ていた。

ケニ(プレゼン)
「…以上のように、パイロット長さとダイ側ニゲ長さを
 図面通りに処置してしまい、
 実際のワークの動きを充分に確認しないまま量産に入ったことが、
 今回の不具合の原因と考えております。」

坂井は、スライドとケニの目の動きを見比べて思う。

坂井(心の声)

「説明は筋が通っている。
図も綺麗だ。
でも、この人の目はどこか別の場所を見ている。
まるで、
『本当の原因はここじゃない』
と、自分で分かっている目だ。」

目産 ベテラン品証
「説明は理解しました。
 ただ、今まで一度も不良を出していなかった工場で、
 なぜ今回だけこの問題が起きたのか?
 その再発防止はどうお考えですか?」

ケニが言葉を探した瞬間、
踏反本部長が前に一歩出る。

踏反本部長
「そこにつきましては、
 我々管理側の責任でございます。」

踏反本部長
「以後、同様のことがないように、
 使用金型全数のメンテナンスと、その記録を定期的に実施いたします。
 さらに、その結果は
 目産ダントツ品質向上活動の枠で毎年ご報告いたします。」

坂井(心の声)

「全数メンテ…?
この状況で、本当にそんなリソースがあるのか?
でも誰も突っ込まない。
これも儀式の一部なんだろうか。」

ベテラン品証
「そこまでやっていただけるなら安心です。
 では、その方向でお願いいたします。」

坂井は小さくため息をついた。

「まただ。
表向きは安心しましたと言う。
実際には、
どうせ全部はやれないだろうと皆が思っている。
それでも、この儀式が続く限り、
問題は解決したことになるんだ。」

14. 社内での「全数メンテ」丸投げ

会社に戻ると、報告会が開かれた。

踏反本部長
「というわけでだ。
 目産には、全数メンテナンスと記録という
 実に立派な再発防止策をコミットしてきた!」

(よくわかってない部門から拍手が起きる)

高桃課長
「さすが本部長!
 ダントツ品質向上活動の目玉ですねぇ。」

ケニ(心の声)
「(目玉どころか、
 現場の目と腰と時間を全部持って行くやつだぞ、それ…)」

踏反本部長
「で、中身だが──」

(その場の視線が、ゆっくりとケニに集まる)

踏反本部長
「ケニ。お前だ。

ケニ「……はい?」

踏反本部長
「お前が今回の調査をやった。
 お前がプレゼン資料を作った。
 だから当然、
 全数メンテ+記録+報告の仕組みも、お前が作る。
 な?」

波良技術部長
「現場出身の感覚でやってくれたほうが、リアリティが出るからさ。」

高桃課長
「僕は忙しいから、出来上がった帳票を見て
 指導コメントだけ書くわ。ははは。」

ケニ「全数ということは、ラインを止めずにどうやって──」

踏反本部長
「だからお前の工夫だろうが!
 こっちは約束してきてやったんだぞ。
 感謝してほしいくらいだ。」

ケニ(心の声)
「(ありがとうって言う相手、完全に逆だろ…。
 謝るなら、まず現場にだ。)」

15. プレス解析庵に戻って:3人の総括

ケニ「…という流れでな。
 全数メンテ宣言は全部あいつが勝手に言って、
 帰ってきたらはいケニ、あとはよろしくだ。」

スチール猫
「それ、再発防止策っていうより
 ケニ過労死促進パッケージだニャ。」

トワ
「約束するのは3秒。
 そのツケを払うのに現場は3年。
 そういうのを俺は
 『割り勘詐欺型マネジメント』って呼んでる。」

ケニ「割り勘どころか、全額+延滞金付きで
 こっちに回してきてるけどな。」

スチール猫
「供物:労働時間、
 お供え物:サービス残業、
お清め:自己嫌悪。
 ブラック神社フルコースだニャ。」

トワ
「技術的な真因は、
 『薄板用金型 × 規格ど真ん中の厚板』
 それを直視せず、
 とりあえず帳票を増やす方向に逃げた時点で、
 技術は死んで儀式だけが生き残る。

ケニ「一番しんどかったのは、
 穴が6mmズレたことじゃない。
 自分の良心が6mmズレたことだと思う。」

スチール猫「うまいこと言ったニャ。
 座布団を6mmだけズラしておくニャ。」

トワ
「でも、その6mmの違和感を忘れなかったからこそ、
 今プレス解析庵で、
 『技術の話をするときだけは嘘をつかない』って
 決められたわけだよな。」

ケニ「ああ。
 あの時の自己嫌悪が、
 今の俺の芯になってるのは間違いない。」

スチール猫
「じゃあこの話、
 熊ネタ3連発のあとの 人間の熊シリーズ第一弾として
 堂々と出せるニャ。」

トワ
「サブタイトルはこうだな。
 『板厚0.2mmの差で、
 会社の本音が6kmズレた夜』
。」

ケニ「長いけど、嫌いじゃない。(笑)」