第14話:見えない横力を断つ:犯人は無駄な押さえ

経験談

— SECC t1.0/順送160t/U曲げ70mm/左右同軸0.1/左右アーム約120mm/サイドピアスΦ2.3&Φ3.0 —

ナレーション
量産が始まってから数か月経ったある日、バリカジリでストップ。
検査票はOK、現物はNG。測っても揃ってる、でも壊れる
会議室に集まったのは、ケニ、スチール猫、トワ、三羽ガラス、現場、営業、Mr.シュガー(中国駐在/オンライン)。
見えない力を、言葉と図であぶり出す夜が始まる。

第一幕 開戦

製造部長
「量産止まった。サイドピアスでバリ&カジリ。今日中に道筋を。」

営業部長
現地トライOK検査票OK移管OK。つまりOKの三段活用です。」

スチール猫
「OKの三段活用って、OK, おけ, オッケー牧場のこと?それともオー結構!」

品証部長
「牧場より現場を見ろ。」

技術部長
「図面条件:SECC t=1.0、U曲げ高70mm、同軸0.1、サイドピアスΦ2.3/Φ3.0。定石は外してない。」

現場オペレーター
測定は全部合ってます。でも噛みます。どうしても噛みます。」

トワ
「合ってるは計測空間での話。現象は加工空間で起きる。空間が違えば真実は分裂する。」

スチール猫
真実の分裂!猫は毎日睡魔と現実が分裂してる。」

ケニ
「空通しから行く。サイドピアスのストリッパーとカムの戻りバネ外しパンチ手送りダイへ。抵抗確認。」

(全員が覗き込む)

ケニ
「……抵抗なし位置出てる。」

技術部長
ガタ無し押さえ圧十分理屈上は煽られない。」

現場オペレーター
「でも噛むんですよ、確実にバリも育ちます。」

トワ
理屈の完全は、現実の不完全を説明しない。次。」

第二幕 迷走0.2mmと、トワの舌

金型Gr-A
サイドピアスダイ0.2mm、カジリ反対側に振って当たり薄くしよう。」

ケニ(内心):
逆側が空打ちで当たる。でもやらせて見せるほうが学習は深い。)

(試作→結果)

金型Gr-A
少しマシかなぁ。が、逆側にカジリ出ました。使えないレベルでは無さそう。」

トワ
0.2mmの善意は、最初に傾きを転嫁して帳尻を合わせただけ。パッチは因果を壊す。」

スチール猫
にゃるほど!0.2mmのパッチって、絆創膏じゃなくて、ただの『応急シール』だにゃ!エンドロールには『責任逃れ担当』って載せとくにゃ。」」

製造部長
「じゃあ何がパンチを横に押してる?」

トワ
誰かではなくいつか時間方向の接触を疑え。
必要な瞬間だけ必要な場所だけ押さえているか?

第三幕 スケルトン査問会

ケニ
スケルトンをピッチ順に並べる時間×空間で追うぞ。」

(机にスケルトンが整列。全員が立って囲む)

ケニ
ピアス直前だけ押さえればいいのに、前工程でも後工程でもアイドルでも押さえてる。
板押さえの範囲が広すぎ&時間が長すぎ。」

技術部長
「……偏荷重ストリッパーの微傾きピアス初期に横力が立つ……あり得る。」

品証部長
「検査票には押さえ時間の項目が無い。だから見落とす。」(あるわけない)

Mr.シュガー(画面の向こう):
言ったんだけどなぁ~押さえすぎ注意って。じゃ、今も言っとくね。
(スマホ連打)」

スチール猫
砂糖の言った, 言ってる, 言っておく活用甘口三兄弟。」

トワ
ヒアリングは空気現象は鋼鋼は黙るが嘘はつかない。」

ケニ
犯人=過剰な押さえで仮説を立てる。ピアス周囲以外は全面ニゲ、周囲は片側約7mmの保持帯だけ残す。押さえ圧は必要十分に。」

金型Gr-A
押さえ面の削除、やります。面も軽く整えます。」

スチール猫
減押(げんおさ)主義、開宗。お布施は7ミリでお願いします。」

第四幕 トライ、そして静かな面

(プレスが降りる。短い沈黙。排出品を手に取る)

現場オペレーター
「……バリ沈黙カジリ消失同軸0.1も守れてます。」

品証部長
Rzのばらつき半減。記録に残す。押さえ当たり図も図面添付にする。」(いつもながら関係ないぞ)

金型Gr-B(ぽかん):
測定は正しかったのに、答えは測定外にいました……。」

トワ
何を測るかを決めるのが設計。今回は時間不要接触を測っていなかった。
設計の盲点は測定の盲点に伝染する。」

スチール猫
盲点って目薬させない場所。猫の背中もそれ。」

ケニ
結果があるなら原因が必ずある見えないなら、挙げる→観る→論理で消す
今日は不要な押さえが消えた。」

第五幕 Mr.シュガー再登場と、会話の作法

営業部長
「移管前に、そこは見抜けなかったのか?」

Mr.シュガー
言ったんだけどなぁ~、トライしっかりねって。
(スマホ連打:取り合えず現地語でメール)今も言っとくよ、しっかり。」

ケニ
しっかりは動詞じゃない図と数値とタイミングで言え。
言葉は軽い、図は重い。現場は重いほうから動く。」

トワ
立会い=『見る→図にする→仮説→潰す』。
電話=『聞く→伝言→安心』。
安心改善ではない。」

スチール猫
「「にゃるほど!『押さえ圧』が伝言ゲームで『押さえ(お札)』に変わって、誰も現場を見なくなるにゃ。最終的に『カネ型』の話だけ残るにゃ!」」

品証部長
帳票を量×面の二軸へ改定。
サイドピアス周囲以外の押さえ禁止を
標準に入れる。」(金型標準に口出すな!)

技術部長
工程連続図に押さえ当たりを必須化、前後工程・アイドルの不要接触ゼロ監査項目へ。」

現場オペレーター
押さえ帯7mm、覚えました。他は全部ニゲ、覚えました。次からこの事例を活かします」

スチール猫
「にゃるほど!『押さえ帯7mm』は覚えたにゃね~。じゃあ、これが『材料ロットが突然変わったとき』の試験に出たらどうするにゃ? もちろん『現場力テスト』にゃ!」」

第六幕 トワが多めに斬る・核心セット

トワ
①測定OKは現象OKの証明ではない。測ってない軸(時間・接触・順序)が残っている。
②局所0.2mm移動の善意は、因果を隣へ押し出すだけ。システムは整合で見る。
③無駄な押さえ過ぎは摩擦の自作自演。必要十分を言語化しない設計は、現場に傾きを配布する。
④ヒアリングは証言、スケルトン列は物証:事実。裁判なら物証が勝つ。

スチール猫
「物証、モショー。Mr.ショーガー、今日は出演多いね。」

Mr.シュガー
物証、モショー。ええと、言ったんですけどなぁ~『この件、これでOKって言ったんですヨ。』…(スマホ連打)誰が言ったかって?えーと、誰だったかなぁ? でも、大丈夫だそうですヨ。

ケニ:(Mr.シュガーの言葉に、心底呆れながら)
言った言ったという『行為』が、技術的な『根拠』になるのか? あんたの仕事は、『伝言ゲームのオウム』じゃない。その『OK』が、摩耗粉の発生、チッピングの再発、そして未来の賠償金に、どう責任を持つのかを説明することだ。あんたの『大丈夫』は、誰の命も守れねぇ。

トワ:(静かに、しかし冷酷な皮肉を込めて)
『言った』、そして『大丈夫』。これは、責任転嫁の黄金律だな。『誰でもない人間』『何でもない安心』を伝えている。あんたの存在は、伝言ゲームで押さえ圧が『押さえ(お札)』に化ける、組織の病理の縮図だ。」

スチール猫(突然、Mr.シュガーに詰め寄りながら) 「Mr.シュガー!お前、物証がないのに『大丈夫』って言うのかにゃ!?お前がやってんのは『安心料のツケ払い』だにゃ!『誰かから聞いた』って、それ『夢の中で聞いた』のと同じだにゃ!」

ケニ(スチール猫の言葉を受け、Mr.シュガーに静かに、決定的な言葉を突きつける) 「もう分かった。あんたの言葉はいらん。 見ろ。見るより、図にしろ。図にしたら、消せ。――それが、あんたに足りない技術者の魂のプロセスだ。

あとがき(対話たっぷり版)

スチール猫
「今日の学び:押さえ過ぎ注意。恋も金型も距離感が命。近すぎるとカジリ、遠すぎるとサビ。」

トワ
距離機能機能定義定義。だからが勝つ。」

ケニ
図で勝つ。それなら俺たちはやれる。
見えない力も、図にすれば見える
見えたら、消せる。それで十分だ。」

スチール猫
毛アレッボハ! 最後に宣言:押さえ7mm、図面∞(無限大)、そして……! 現場から緊急警報! 今、猫の聴力、全域でゼロdB嗅覚、測定不能(無限大)!しかし、腹の爆音は100dBオーバーにゃ!このままじゃ、金型のパンチが腹の振動と共鳴して、全部『ツナ缶の蓋』になるにゃ! ツナ缶400gで五感の復旧を要請するにゃ!直ちにツナ缶支給せよ!!」

現場に貼る三か条(今回の決定)

  1. 押さえは機能点だけ:サイドピアス周囲 片側約7mm帯のみ保持、その他は全面ニゲ
  2. 工程連続図へ押さえ当たり常設:前後工程・アイドルの不要接触ゼロ監査項目化。
  3. 量×面の二軸管理:寸法/同軸/せん断量(量)に加え、面粗さ・面観察(面)を常時記録。

ナレーション
こうして測定OKなのに壊れるピンチアラームは、押さえ設計を言語化することで静かになった。
次の問題もきっと見えない顔をして来る。だが、図にして、見て、消す
それが、アストロ工業の夜の仕事だ。